この社会がどうしても許せなかった頃の話#8
※前回
「人工DNA製造企業での研究開発職」
ここに応募しようと思った。
ここが良いと思った理由は
・実際に一緒に働く人と面接する
・珍しい業種
・ほとんど口コミがない=単純に離職者が居ない=辞める理由が無い企業である。
※↑現在は在職中でも多様な口コミが投稿されるようになっているけど、この時代は、辞めた人が悪評の口コミを書くのがスタンダードだった。
・外資系
・平均年齢が低い(40歳以下)
などなどがあった。
個人的に、ブラック企業になりにくいと考えられる要素が多かった。
エージェント「良いけど・・・ここは多分相当難しいよ?」
いつも「良いよ」というエージェントから、違う返事が返ってきた。
この求人には、求めるスキルに「英語」「業務プログラミングスキル」「データベースに関する知識」などがあり、大学卒業して2ヵ月の私が応募するには中々の壁だった。
私「変な話してすみませんが、ここってホワイト企業ですよね?」
エージェント「・・・そうだね。ここは滅多にないような、良い人間がとても多い会社だと思う。」
最強のメタ情報ゲットした。
私「受けます!」
応募した。
ちなみに、ここ以外にも受けた会社はいくつかあったけど、不採用だったり、なんかブラックっぽいから辞退したり色々だった。
でも、今まで受けた中でも、この会社より条件が良いところは無かった。
私は大学でプログラミングや情報学基礎を学んでいたけど、業務用のプログラムは書いたことが無かった。
何故か、書類選考は通った。
「とりあえず会ってみるか」って所だろうか。
この時は意外と書類選考の通過率は高かった。
大企業に「在職中」という状態の書類で出せたのが大きかった。
でも「そのまま面接を受けると、この企業は落ちるな」という気がした。
だって私が採用担当だったら、数ある応募者の中で、あえて私を雇う意味が無いから。
面接まで1週間も無かったけど、私は必要書類のほかに、必要スキル一覧にあったプログラミング言語を勉強して、睡眠時間を削って、即興でシステムを1つ作成した。
私は面接にそれを持っていくことにした。
面接では、実際に一緒に働くことになる社員が同席した。
若くて話が通じそうだった。
よくある志望動機とかいろいろと聞かれた。
生物学・医療分野に貢献して人を救いたい的な、大層なことを言ったと思う。
面接は普通に終了しそうになったけど、私はUSBメモリを取り出して、渡した。
社員C「え!?なんか作ってきてくれたんですか!?」
社員T「へぇ~~!」
別に何かを作った事自体は全然すごい事じゃないし、作った物も優れたものでは無かった。
慣れてる人なら2時間未満で作れる程度のもの。
どちらかというと「この日の為に、この会社のために何か作ってきた」というのが大きかったのだと思う。
ここで空気が変わり、面接は終了せず、私は研究室へ案内される事になった。
分厚い防火扉3回ほど開けた先の、奥の部屋まで案内された。
それまでは真っ白なオフィスという感じだったのだけど
全体的に深緑色のペンキが塗られている研究室に入った。
研究室内は強い酸性の薬品の香りが充満しており、床は何ヵ所か溶けている。
大量の機械のモーター音、アラームやポンプの音、ロボットアームの関節が動く音が混ざり合う
なんだここ。ヤバイ。
白衣に防護マスク、手袋を装着した社員が大量に居た。
この部屋も、全員若者で構成されている事を確認した。
社員C「入社したら、こういうのを触ることになります」
人工DNAの製造情報が表示されているアプリケーションを見ながら、軽く説明を受ける。
当然、この時はよくわからなかった。
社員C「入社したら、ここが君の席になると思う」
え、まだ選考中だけど、そこまで踏み込んだ話して良いの?
これで不採用にしたら泣いちゃうよ?
色々と紹介されて、面接は終了になった。
後日、エージェントから電話があった
エージェント「もしもし?〇〇社の件だけど、一次面接通過だって。」
私「ありがとうございます!!!」
エージェント「この会社、今まで応募した人を全員一次面接で落してたんだけど・・・どんな受け答えしたの・・・?」
プログラム作って渡した事を伝えた。
エージェント「えっと・・・偉いね!!」
このエージェント、なかなかの口下手だった。
エージェント「何かアドバイスしたい所だけど、二次面接は誰も行ったこと無いから、何も手助けできないんだ。とにかく、頑張ってね」
二次面接については特に面白味が無いので、結論を言うと、
ある程度の人柄の確認と、内定の合意だけで、結果は採用だった。
この時は本当に嬉しかった。
ホワイト企業に受かったなら、
もう私の人生は大満足じゃないか。
やったね!
入社して、実際にみんな、柔軟な考え方ができる人で、優しかった。
上司も優しいし、仕事で関わる人みんなが「むやみに怒るのは意味の無い事」と理解していた。
なんか、薬品で粘膜が溶けて鼻血とか出てきたし
入社2日目に背後から話しかけられて「ねぇ、エッチな本とか、どういうの読んでる?」とか変な事聞かれたけど
私は本当にこの職場に満足していた。
・・・この時は。
本当にこの職場が、このままずっと文句なしのホワイトな職場だったのなら、
こんな風に連載が続いているわけがないんだよね。
ここからおよそ2年後、
私はあまりにも辛すぎて、奇行に走ることになる。
#9に続きます。