この社会がどうしても許せなかった頃の話#6
※前回
返送されてきた。
「退職届」が。
そして、同封されてた手紙には「会社に来い」と。
・・・うん、そうだよね。
薄々こうなるってわかってた節はある。
というか、採用思想が古いって狙いでこの会社入ったんだから、
当然、こういうとこの考えだけ今風なんて都合の良い事、あるわけないんだよね。
でも、どうする?
え、退職届投げつけた後に、あの上司が居る場所に戻るの?
無理では・・・?
いやほら、そんな鋼の心臓があったらさ、5月に、しかも実務2週間程度で退職届なんか投げつけてないよ。
受理されなかったって事は、私は今日は無断欠勤か。
教育係からのLINE「会社辞めたの!?」
そうか、LINE交換してたっけ。
彼からは教育されたことも無いし、何かを話す義理も無いので、未読無視した。
社用のガラケーに電話
これも無視。
実家の家電に電話
この会社では、給与を一人暮らしができる程度さえ払わない分、実家に近い拠点に配属させるし、安定した職、公務員と同じ公的機関の福利厚生を与えよう。という形態だったので、私は実家に居た。
親(退職知ってる)「なんか、あんたに代われって」
そう、親はこういう心理戦に疎かった。
いや、疎すぎ。
電話を取らないと行けない状況になった。
私「誰?」
親「Oさん?って人」
Oさんとは、会社の総務部長だ。
私の部に居る人間とは違って、とてもゆるふわな性格の人だった。
身体が横に大きい。たぶん数少ない癒し系。
でも、ほとんど話したことがない。
私の事を、そんなに知らないはず。
まず、電話を取るまでに「Oさんがどっち側か?」が判断つかず、酷く逡巡した。
古い会社だし、一見優しくても「根っこのところでは、厳しい考え方を重んずる人が多い」と推定するのが自然だったから。
でも現実の時間では、この間は2秒未満くらいだったと思う
私「・・・もしもし」
Oさん「あぁ~~~良かった、出てくれた。ごめんねぇ。電話、出るのも大変だったよね」
私は当然まだ疑っていた。
なぜなら、上の命令に従い、総務の業務を完結させるには、まず誘い出さないといけないからだ。
今は事を荒立てる気はないんだな くらいの安全だけ確保できた。
ひとまず落ち着いて電話の内容を聴くと、こうだった。
・1度だけ会社に来て欲しい。話したいことがある。
・私が所属している部署の人間には会わせないようにする。
・上記の条件は絶対に守る。
・元気が出てからで良い。
随分優しい条件だった。
肝心の話したい内容は見えてこない。
私は本当に参っていたし、なんかお腹も壊してるのがデフォになったし、退職届も投げつけたけど
上記の条件が本当に守られるなら、出社する精神的な余力は十分残していた。
というのも、私は「行動は早ければ早い方が良い」というのを、意思決定において特に重視していた。
勿論、2年も大学を留年してるし、新卒カードも捨てることになるんだけど
心身が壊れるまで、この環境、この業務に留まる意味を見つけられなかった。
「とにかく会社っていうのは辞めてはいけないんだ」を念頭に置くタイプでない限り、そこで働く理由が見いだせなくなったら、居てもデメリットしか無い。
心身が崩壊する前に手を打つ、損切りというものだ。
私は「できれば出社して欲しい日」のうちで、直近の日付に会社に向かった。
いくらOさんが約束を守ろうとも、会社周辺で、何十人も居る同部署の人に遭遇したら詰むので、手足は冷たくなった。
会社の通用口に来る。ここで暫く待つ。
なんで自分でササッと入れないかって?
退職届と一緒に、ICカードも投げつけたから。
通用口のロックが解除されて、扉が開く
Oさん「おはよう。大丈夫。約束は守るよ。ついてきて」
運良く同部署の人に遭遇することはなく、Oさんが迎えに来て、知らない部屋に通される。
私のデスクからは少し離れた、全体的に暗い灰色で、時計と灰色の机だけがある無機質な部屋だった。
Oさん「よく来たね。ちょっと準備するから、そこに座ってて」
Oさんが部屋から出ていく。
何が始まるんだろうか。
上司とか呼んでくるのだろうか。
まだ、何が起こるかわからない。
私は拳を握りしめていた。
Oさんが戻って来た。
・・・どうやらOさん1人だけの様子で、私の対面に座る。
Oさん「あぁ、大丈夫。ここには誰も来ないし、僕はただ話を聞きたかったんだ。」
Oさんは嘘を言ってるように見えなかった。
この瞬間、安全を認識した。
少し、緊張がほぐれた。
Oさん「本当は退職届の話を聞いて、業務を中断してすぐに家に行って話を聞こうと思ったんだけど、考え直して、まず電話にしたんだ。・・・本当にここまで来てくれるとは思わなかったけど。」
どうも、私の上司や部長などからOさんへは「しっかり教育もしていたし、丁寧に面倒を見ていた。優しくしていたし、何も問題はなかった」旨の説明を受けていた。
それを聞いたOさんは、電話で私をここに呼んだ。
会社に一度来てもらう以外の部分は、全て上の命令ではなく、Oさんの独断で実行した。
規律に異常に厳しいこの会社で。
自分の、非常に責任が重い管理職の業務を止めて、部屋も確保して。
誰も、この部屋に入らないように働きかけたそうだ。
Oさんが他を寄せ付けずに私をこの部屋へ招こうとしたきっかけは
私の上司たちからの「優しくて丁寧な教育をしていた」という説明を受けた時
「この人達は嘘をついている。」というOさんなりの確信があったからだった。
#7に続きます。